大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)448号 判決 1984年11月16日

(最高裁昭五四(オ)第四四八号、配当異議事件、昭59.11.16第二小法廷判決)

上告人

高津電導精機株式会社

右代表者

高津進

右訴訟代理人

中村源造

檜山玲子

被上告人

川崎市信用保証協会

右代表者理事

高橋正行

右訴訟代理人

高野俊男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村源造、同檜山玲子の上告理由について

一1  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(一) 訴外浜田鉄工有限会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四七年八月二五日訴外株式会社三菱銀行(以下「訴外銀行」という。)から、利息年7.5パーセント、遅延損害金年一四パーセント、弁済方法は最終弁済期を昭和五四年七月三一日とする割賦払とし、かつ、割賦金の弁済を一回でも怠つたときは期限の利益を喪失し残額を一時に支払うとの約定で、二〇〇〇万円を借り受けた(以下「本件借受金」という。)。(二) 訴外会社の代表取締役である訴外浜田好信(以下「訴外浜田」という。)は、昭和四七年八月二五日訴外銀行に対し本件土地建物について被担保債権の範囲を訴外銀行の訴外会社に対する銀行取引上の債権等とし、極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定し、同年九月二五日その旨の登記を経由した。(三) 被上告人は、昭和四七年八月二二日、前記借受に先立つて、訴外会社からの信用保証の委託申込に基づき訴外銀行に対し本件借受金債務を保証した。(四) 被上告人は、昭和四七年八月二二日、(1) 訴外会社との間で、求償権の内容について、被上告人が訴外銀行に対し訴外会社の本人借受債務を代位弁済したときは、訴外会社は被上告人に対し被上告人の代位弁済した全額及びこれに対する代位弁済をした日の翌日から支払ずみまで年14.6パーセント以内の割合による遅延損害金を支払う旨の合意をし、(2) さらに、訴外浜田との間で、民法五〇一条但書五号の定める代位の割合について、被上告人が訴外銀行に対し代位弁済をしたときは、被上告人は、訴外銀行が訴外浜田に対し有していた本件根抵当権の全部につき、訴外銀行に代位し、その求償権の範囲内で訴外銀行の有していた一切の権利を行使できる旨の合意をした。(五) 訴外会社は、昭和四八年一二月二五日本件借受金債務の割賦金の弁済を怠つたことにより期限の利益を喪失し残額を一時に弁済すべきこととなり、その後本件根抵当権は、昭和四九年一月八日取引の終了により担保すべき元本が確定し、同年八月六日元本確定の附記登記が経由された。(六) 被上告人は、昭和四九年八月九日訴外銀行に対し本件借受金債務の残額全部の弁済として元本一八八〇万円及びこれに対する同年一月一日から同年三月三一日まで約定の範囲内である年7.5パーセントの割合による遅延損害金三四万七六七一円の合計一九一四万七六七一円を代位弁済し、同年八月一三日右代位弁済を原因として本件根抵当権の移転の附記登記を経由した。(七) 上告人は、昭和四八年一〇月二三日訴外浜田から本件土地建物について根抵当権の設定を受け、同月二四日根抵当権設定登記を経由した。(八) 横浜地方裁判所は、上告人の申立に基づき本件土地建物に対し不動産競売手続を開始し、本件土地建物を一七〇〇万円で競売し、昭和五〇年一二月二五日の本件配当期日において配当表として第一審判決添付の第一配当表を作成した。(九) これに対し、順位三番の債権者である被上告人は、同番及び同番以下の債権者に配当可能な一四〇〇万〇五四九円の全部について優先弁済を受けることができると主張して異議を申し立てたが、完結しなかつた。

2  被上告人は、順位四番の神奈川県信用保証協会、同番の城南信用金庫、同五番の上告人の三名を被告として本訴を提起し、これらの債権者に対する交付額の全部を取り消し、これを被上告人に対する交付額を加える旨の判決を求めた。

3  右の事実関係のもとで、原審は、被上告人の主張する求償権の内容についての前記(四)(1)の合意及び民法五〇一条但書五号の定める代位の割合についての同(四)(2)の合意が上告人外二名に対する効力を有するとしたうえ、被上告人の請求を全部認容すべきものであるとし、これと同旨の第一審判決は相当であるとして本件控訴を棄却している。

二思うに、弁済による代位は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確実にすることを目的として、弁済によつて消滅するはずの債権者に対する債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に法律上当然に移転させ、代位弁済者が求償権を有する限度で右の原債権及びその担保権を行使することを認めるものである。したがつて、保証人が債務者との間で右のような求償権の利息又は遅延損害金についていかに合意をしても、右の合意は、行使される担保権の内容に変動をもたらすことはなく、それゆえ、担保物についての後順位担保権者その他の利害関係人に対してなんら不当な影響を及ぼすことはありえないのであるから、保証人と債務者との間で求償権について約定の割合による遅延損害金を支払う旨の合意をしたときは、代位弁済した保証人は、右合意による遅延損害金を含んだ求償権の総額を上限として、物上保証人及び後順位担保権者その他の利害関係人に対して、代位弁済によつて移転を受けた担保権を行使することができるものと解するのが相当であり、また、保証人が物上保証人との間で民法五〇一条但書五号にいう代位の割合についていかなる合意をしても、右の合意は、代位によつて移転する原債権及びその担保権の増大をもたらすものではなく、単に右の担保権自体の帰属の割合に関するものにすぎないのであるから、共同抵当に関する民法三九二条のごとく担保不動産について後順位抵当権者その他の利害関係人のためにその権利を積極的に保障する明文がない以上、右の利害関係人に対しその権利を不当に侵害することはないということができ、保証人は、物上保証人との間で代位の割合について合意をしたときは、右の利害関係人に対する関係において右の合意をした割合に応じて債権者の物上保証人に対する根抵当権等の担保権を代位行使することができるものと解するのが相当である。

所論引用の判例(最高裁昭和四七年(オ)第八九七号同四九年一一月五日第三小法廷判決・裁判集民事一一三号八九頁)は、本件と事案を異にし、本判決の以上の判断は、右の判例に抵触しない。

三これを本件についてみると、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告人が訴外会社に対して取得した求償権の金額は、本件配当期日において、元金一九一四万七六七一円及びこれに対する代位弁済をした日の翌日である昭和四九年八月一〇日から本件配当期日である昭和五〇年一二月二五日まで約定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金三八五万二五一一円であり、被上告人は、右約定の遅延損害金を含んだ求償権を確保するため、代位によつて移転を受けた本件根抵当権を行使することができるところ、被上告人が代位弁済によつて訴外会社に対して取得した貸金債権の金額は、本件配当期日において、残元金一八八〇万円、右残元金に対する昭和四九年一月一日から同年三月三一日まで約定の範囲内である年7.5パーセントの割合による遅延損害金三四万七六七一円、及び同じく右残元金に対する代位弁済をした日の翌日である昭和四九年八月一〇日から本件配当期日である昭和五〇年一二月二五日まで貸付の際の約定である年一四パーセントの割合による遅延損害金三六二万七一一二円、合計二二七七万四七八三円であり、そして、被上告人は、物上保証人である訴外浜田との間でした債権者に全部代位することができる旨の合意によつて、訴外銀行の訴外浜田に対する本件根抵当権及びその被担保債権の全部を代位取得することができるから、被上告人が本件配当期日において本件根抵当権によつて優先弁済を主張し配当を受けることができるのは、その極度額である二〇〇〇万円を限度とすることになる。そうすると、被上告人が受けるべき配当は、被上告人を含むそれ以下の債権者に配当可能な金員が一四〇〇万〇五四九円にすぎないので、右一四〇〇万〇五四九円は全額被上告人に配当される(その内訳は法定充当の規定に従い、届出債権額のうち遅延損害金についてはその全額である三九七万四七八三円、元金についてはその一部である一〇〇二万五七六六円となる)ものというべきである。

以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 木下忠良 大橋進 牧圭次 島谷六郎)

上告代理人中村源造、同槽山玲子の上告理由

第一、原判決には、被上告人が本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の額を判断するにつき、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

一、原判決は、その前提となる事実関係につき、昭和四七年八月二二日被上告人と訴外浜田好信(以下訴外浜田という)との間で、被上告人が訴外株式会社三菱銀行(以下訴外銀行という)に対し本件借受金債務を代位弁済した場合には、訴外浜田は訴外浜田鉄工有限会社(以下訴外会社という)と連帯して、被上告人の弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年14.6パーセント以内の割合による遅延損害金を償還する旨、訴外浜田が訴外銀行に対し保証債務を弁済し、又は訴外浜田において訴外銀行に提供した担保が実行された場合には、訴外浜田は被上告人に対し何らの求償をしない旨及び被上告人が本件借受金債務を代位弁済した場合には、被上告人は訴外浜田が訴外銀行に提供した担保の全部につき、訴外銀行に代位し、その求償権の範囲内で訴外銀行の有していた一切の権利を行使できる旨の合意がなされた事実を認定し、かかる場合には、被上告人は、本件根抵当権を代位行使するにあたり、その被担保債権として、少なくとも訴外浜田に対する関係においては、民法五〇一条但書五号の規定にかかわらず、訴外銀行から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権全部について、本件根抵当権の極度額の範囲内において優先弁済を主張しうることとなるほか、本件のように後順位抵当権者の存在する配当手続においても、被上告人は、後順位抵当権者たる上告人の存在にかかわらず、求償権の範囲及び代位の関係が前記各約定に従つて定められるべきものとして、本件根抵当権を代位行使して配当をうけるものというべきであるとするものである。

二、しかるに、民法五〇一条但書五号、四五九条二項、四四二条二項の各規定は、いずれも任意規定であるから、前記各約定、すなわち保証人間に締結された代位に関する特約、求償債務につき法定利率よりも高率の遅延損害金に関する特約も、当事者間において有効であることは云うまでもないが、保証人と抵当不動産の後順位抵当権者、第三取得者など右不動産の利害関係人に対しては、右特約をもつて対抗することはできないものと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和五二年(ネ)第二二二二号昭和五三年五月三〇日民事第一二部判決、判例時報八九六号三四頁参照)。

けだし、保証人は弁済によつて当然債権者に代位するものではあるが、その代位権を行使できる債権の範囲は、民法五〇一条本文によつて同法四九五条二項、四四二条による求償権の範囲を越えてはならず、その担保として行使できる抵当権の効力の及ぶ範囲も同法五〇一条の限度に止るものであるから、右のような代位に関する特約及び遅延損害金に関する特約(求償債権担保のための抵当権設定もないのであるから、その遅延損害金についての登記も存しない)に、第三者である利害関係人が拘束されるいわれがないからである。

三、原判決は、主債務者に代わつて弁済をした保証人が求償権の満足を図るべく債権者の有していた根抵当権を代位行使する場合、その被担保債権として優先弁済を主張しうるのは、債権者から代位取得した主債務者に対する債権についてであつて、弁済による代位の性質上、右被担保債権の額は、求償権の範囲や代位の関係についてどのような約定がなされたとしても、右代位取得された債権額を超えることはありえず、しかも右根抵当権の被担保債権の極度額の範囲内に限られること、及び債権者の有していた先順位の根抵当権の存在及びその被担保債権の極度額は登記簿上公示されているのであるから、後順位抵当権者は、右先順位の根抵当権者によつて右根抵当権の被担保債権全部について右極度額の範囲内において優先弁済を主張されることを甘受すべき立場にあることを理由として、このような立場にある後順位抵当権者との関係で前記各約定の効果を肯定し、これに従つて代位弁済者による根抵当権の代位行使を認めても、それによつてもたらされる結果は、後順位抵当権者にとつては自己の容喙することのできない他人間の法律関係によつて事実上反射的にもたらされるものにすぎないと判示する。

しかしながら、右判断は、代位の対象となる債権と求償権とが全く別個の債権であることを看過、混同したものであり是認することは出来ない。

又、本件においては、代位者は信用保証協会という特殊な法人であるが、そのことの故に代位弁済した保証人の地位を特に保護することは当を得ず、むしろ、通常、代位弁済をなす保証人及び物上保証人は、会社とその代表者、或いは夫婦、親子等債務者と密接若しくは事実上同一とみられる場合が多いことを考慮するならば、保証人と物上保証人間の特約により、自由に物上保証人の負担部分を変更し、もつて後順位抵当権者に対する配当金額を増減することの実質的不当性が問題とされなくてはならないことが明らかである。

四、本上告理由における遅延損害金に関する上告人の主張については、本件と争点を同じくする最高裁判所昭和四七年(オ)第八九七号配当異議上告事件昭和四九年一一月五日第三小法廷判決において、既に、上告人の主張と同旨の判断が下されており、原判決は右判例に違背することが明らかであるほか、右事件においては、信用保証委託契約書の方式が本件の場合と異なるため、保証人間の代位に関する特約の効力自体についての判断は下されていないが、法理論としては前記遅延損害金に関する特約の効力と異なるところがないから、原判決は前記判例に違背したものと云うべきである。

五、以上のとおりであつて、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるから、破棄を免れないものと思料する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例